Eriko Ito

東京の、とあるソーシャルセクター(中間支援NPO)に勤めて約6年。期間限定でSeattleのNPOに参画後、帰国して出産しました。NPOスタッフが感じるあれこれを発信していきます。

コロナ禍におけるGrant Writing Support実施報告(2)

思いがけず長くなったので二回に分けます。

第1回では始めたきっかけ、実施結果(定量・定性)について書きました。第2回では、Grant Writing Supportを実施した気づき等についてまとめたいと思います。

Grant Writing Supportに必要なスキルは何か?

実際にサポートをしてみて一番の大きな気づきは、Grant Writing Supportは代筆業ではないということでした。

この活動を思いついた当初は、「リーダー達の頭の中にある計画をヒアリングし、書き起こして少し文章を整えれば申請書の形に整えることが出来るだろう」と思っていたのです。

…が、これは1件目のサポートを行った段階で大きな誤りであったことに気が付きました。

当然なのですが、「完璧なプラン」を作っているリーダーなんて居ません。それは「完璧なプランを作り切る時間があるならば、まず走り出してみよう。目の前に、今、まさに助けを求めている人がいるのだから」というリーダーの行動特性に起因するものでもあると思います。

その為、リーダー達の頭の中にあるものは「目指したい理想の状態と、現在の状況、ぼんやりと作っている事業プラン」です。その状態からヒアリングをスタートし、一つ一つ状況を整理しながら理想の状態に近づくための事業プランのロジックを整理し、また実現可能な事業計画に落とし込んでいく必要があります。

この作業が非常に時間がかかり、かつ大変な作業でした。。上記以外にもGrant Writerには複数のスキルが必要とされることが分かりましたので以下に雑感とともにまとめます。

【Grant Writerに必要なスキルや理解】
  1. 非営利組織の事業プラン策定の経験、理解
    これは前述した通り「既に応募できるだけ整った事業計画が出来ているリーダーはいない」ため、非営利事業の事業計画をざっくりでも良いので作れるスキルが必要とされました。とても簡単にでいいので予算も作れる必要があります。
    そしてここが最も時間がかかるのに、助成金申請においては最も手が抜けないところ…忙しいリーダーたちにヒアリングの時間を割いてもらい、限られた時間の中で適切な質問を繰り返しながらリーダーの頭の中にある計画を言語化していかなければなりません。
    ここに手間取るとリーダーたちに「自分で書いた方が早い」と思われて何も貢献できてないという事態になりかねないので、質問はクリティカルかつ大胆に突っ込んで聞くことを意識しつつもそれをその場で理解して組み立て、その場でリーダー達の大枠の承認を取るという事を意識して行いました。
    綺麗な文章に整えた資料は別途見てもらうのですが、記載する内容については大枠合意するという方法で、短期間での提出にこぎつけたのです…(が、とても大変でした。。。)

  2. 財団等の資金提供者のニーズ、言語、ロジックの理解
    これは表現が難しいのですが、財団等の資金提供者側も「お金をばらまきたい」訳ではなく、ある一定の理念、ニーズ、目指したい状態があって助成金プログラムを設定しているので、その文脈を読み取る、推測するスキルがあるかどうか?という事を指しています。
    例えばですが、「限られた小さなエリアであっても、社会的弱者一人ひとりに物資等の支援が渡り、粛々と確実に現在の困りごとが解決される」事を志向する資金提供者と、「上記の事は志向しつつも、数年後にその取り組みがシステム化され横展開されるなどより広範な影響を与えることが出来る」事を志向する資金提供者では、こちら側が申請書に記載する内容、トーンがかなり変わります。
    また、複数の助成金プログラムに申請するのはそれなりに手間がかかりますので、獲得の確度が高いものに絞って申請をするという戦略もあります。その場合には自分たちの志向と資金提供者の志向がなるべく近い方が獲得しやすいため、「どの助成金プログラムに申請するか」という相談をリーダーと出来るというのもGrant Writerには必要なスキルであると思いました。(どんどんGrant Writerのスキルのハードルがあがってゆく…)

  3. タスク・マネジメント・スキル(スケジュール管理等)
    通常期の助成金プログラムは公募~〆切まで数か月あるものが多いですが、Covid-19対応の助成金プログラムは〆切までの日数が非常に短いものが多く、1日単位でのスケジュール管理が求められました。
    意外と大変だったものが添付資料の数々。特に会計報告資料は認定NPO法人NPO法人はすぐに提出可能な団体が多いはずなのですが、今回は時期が悪かった…。5月~6月の提出〆切の場合、「3月が決算月」の団体にとっては理事会の承認が…や、税理士との確認が…等、時間がかかるケースも見られました。
    それ以外にも提出すれば加点されそうな資料の用意、作成など「申請書以外」の準備に意外と時間がとられるため、リーダーの忙しさの様子を見ながら相手の負担にならないようなリマインドをし、確実に〆切に間に合わせるためのタスク・マネジメント・スキルが必要とされました。これも中々、気を使いました。。
    何故かって、既に社会課題に立ち向かっているリーダー達なのでコロナがあったからといって既存の事業が止まる訳じゃないんですよね。これまでの事業対象者たちへの対応に加えてコロナ対応をしているので、余計な手間を取らせるわけにいきません。この辺りはあまりうまく出来なかったなと反省をしていて、もっと上手くやらなきゃいけなかったなぁと思っています。

  4. 支援先の専門性の理解(医療、精神ケア等の専門領域がテーマの場合)
    これは特に支援先が「専門領域」である場合です。とはいえ、「専門」領域ではない領域は無いので全てに言える事と言えばそうなんですが、例えば今回でいうと医療や精神的ケアの領域については医療的に誤りがある内容は絶対にNGですし、その専門領域が何故必要とされているのか社会的背景および医療分野における文脈を結び付けて事業プランを作る必要がありました。
    今回、たまたまですが、Grant Writerとして手伝ってくれた友人が元出版社でその専門領域の編集プロジェクトに参加したことがあり、専門領域のカバーも出来たというミラクルなマッチングがありましたが、それが無ければ私一人ではできなかったと思います。(そしてそのライターは、非営利組織の記事も書きなれており、かつ非営利組織での勤務経験もあり、人柄的にも信頼して任せられるというミラクルのミラクルが起きたマッチングでした。。)

  5. ライティングスキル(記事作成)
    当然ながらライターとしてのスキルも必要です。リーダーの頭の中にあるBig Visionヒアリングし、言語化し、それを助成金プログラムの趣旨に沿う形に適切に変換し、かつ適所に「非営利セクターのトレンドワード」を入れながら相手の目を引く文章に仕上げていく…
    プロのライターであればいつもやっていることだと思いますが、「非営利セクターのトレンドワード」はこの業界にいる人じゃないとピンときにくいのかなと思いますので、そういう事に感度を高めていくことも重要だなと感じました。

  6. 資金提供者側とのコネクションや、過去採択者とのネットワーク
    必須ではありませんが、あってよかったなと思ったのがこのコネクション、ネットワークです。正直、募集要項読んでいるだけでは真意が測りかねる事があったんです。そんな時には、助成金プログラムを出している担当者や過去に採択された団体の人に直接連絡を取り、率直に質問をしていました。この手段は裏口ではなく(笑)、どの助成金プログラムも応募を考える団体からの質問は受け付けていますので、必須ではありません。ただ、〆切まで日が短い中で迅速に情報収集が出来たのは日ごろからのご縁があるからというのは大きいなと実感しました。
【Grant Writing Supportに必要なこと:番外編】
〇支援を受ける人と支援する人の相性(気持ちのマッチング)

あくまで番外編なのですが、結構大事だなと思うのは、Grant WriterとNPOの相性かなと。上述したようにプロボノとしてやるにはかなり大変な作業なんです、Grant Writing って。だから「リーダーの理念や志に心から共感しており、その事業の実現のために自分が貢献できる事が嬉しい」と思えるかどうかがとても重要です。また、その気持ち無くして申請書は書けません。(これは断言)

それもあって、今回は支援するリーダーの募集はJapanese Women Leadership Initiativeのリーダーコミュニティ(クローズド)に限定しました。結果、とても尊敬できるリーダーの方々とご一緒でき「その事業をぜひ実現したい、実現に向けて自分の力で役に立てることがあれば」と強く思えたのでやりきれたのだと思います。

正直に言えば、2歳の子供がいる私にとって保育園が登園自粛になったあのコロナの時期に通常の仕事もこなしながら、更にこのような重たいプロボノの時間を取ることは並大抵の事ではありませんでした。

これが例えば、私のことを「申請書を書いてくれる代筆屋さん」ぐらいの扱いしかしてこないリーダーだったら、きっとこんなにもしっかりとは取り組めなかったと思います。

素晴らしいリーダー達が、この社会全体が混乱に陥りかけている中、新しい挑戦をしようとしている。そしてそれをスタートさせるために私のスキルを活かすことが出来る。

そんな素晴らしいめぐりあわせがあったからこそ、やり抜くことが出来ました。

 

【終わりに…雑感のまとめ】

アメリカではGrant Writerという職業は一般的だそうです。獲得した資金の10%程度を成功報酬として貰う、ファンドレイザーの一つの仕事として確立されているそう。

日本では「助成金確定前の費用は助成金から出せない」という理由から職業として広がっていくのはまだまだ難しそうな印象ですが、今回のプロボノ経験で間違いなく必要とされている職業、スキルだなと感じました。(ファンドレイザーの皆さんはもうやっていると思いますが、Google で検索してもその成果報告等があまり出てこなかったんですよね~。)

最後に青臭い事を言いますが、「想いあるリーダー」と「資金提供という方法を通じて社会をよくしていこうと思う志あるお金」のマッチングの一助を担う事ができたのが一番嬉しかったです。まだまだコロナの影響は収束の様子を見せませんが、(私がサポートした非営利組織に限らず)資金提供を受けた多くの非営利組織の事業を通じて、社会的弱者が救われ、少しでも明るい方向を向くことを心から祈っているとともに、自分でも更にできることを探していこうと思っています。